畦道日記

大海臨まず畦の蛙 草場の陰で薄ら光る

シリーズ『えーと、俺の名前は山川幸雄』第三話

俺の名前は山川幸雄(58)。
趣味は自転車。無職。生活保護受給者だ。
俺は世の中に何の借りもないと思っているぜ。


こんな蒸し暑い日は、やっぱり自転車で近所をカッ飛ばすのが一番さ。


ボロ屋にはもちろん、クーラーなんてないからな。


拾ってきた「壊れかけの扇風機」があるだけさ。(注1)


あと、御年八二歳の母ちゃんによる手動風力機ってやつ。


要はうちわの事さ。


これがまた生ぬるくてよ、八二歳のばあさんをこき使ってるみてぇで、罪悪感で暑苦しくなるんだ。


ダルさが増すわけさ。


だから俺は、夏のこんな暑い日は、近所を自転車でカッ飛ばすことにしている。


それでなくても、毎日そうしているんだが。


今日は俺、スーパーで買い物するんだぜ。


何故かって?金が入る日だからだよ。


生活保護受給日ってわけだ。


実は俺には弟がいて、その弟の名前は山川敏雄(50)だ。


そいつも生活保護でこれまで生きてきたのさ。


弟は口も利かねぇ、ちょっと変わったやつで家の中に50年間閉じこもりっきりよ。


閉じこもり男だ。


信じねぇって?だが本当の事なんだ。


弟を一目見りゃわかるよ。


すげぇ色白だ。


今日は、弟と俺の分の生活保護費が入るわけさ。
ルンルン。


俺はその金で、食料やらトイレットペーパーやら、家賃やら、電気代やら一切合切を払うんだ。


その金はこの国のどこかに集められて誰かが国にゼーキンを収めて、そのゼーキンの一部がまた俺のところに舞い戻ってくるんだ。


金を使ってもまた戻ってくるんだぜ、本当にいい国だよ、日本は。


薄気味悪いくらいだよ。


よし、俺は今日奮発して千円使うんだ。


最近できたスーパーに行ってみるか。

                                         


(注2)スーパー麻生だ。国産にこだわったお店らしいぜ。


とにかく外国製品が一切ないというじゃないか。


俺はフィリピンのエビが好きなのによ、ここには置いてない。



<山川、入店する>


「いらっしゃいませ~~~」


やっぱりいいな~、クーラーがガンガン効いてるぜ。


寒気で鳥肌が立つぜ。


うーん、なになに?キムチ100グラムで千円?


国産キムチですからって書いてあるぜ。


豚肉1パック千円?国産ですからって書いてあるぜ。


納豆3パック入り千円?国産大豆で日本人による製造ですからって書いてるじゃん。


玉ねぎドレッシング1個千円?瓶もメイドインジャパンですだと。


俺は逃げるようにそのスーパーを出たよ。


もちろん何も買わずにな。


そもそも俺みてぇな貧乏人が来るところではなかったようだ。

                                   


俺にもそれくらいの空気は読めるのさ。


ところで国産だとなんであんなに高いんだ?


こだわりの製品ってわけか?


母ちゃんは猫の額ほどの庭で野菜を作ってるよ。


あれはまぎれもなく国産野菜だよな。


生産者はまぎれもなく日本人だぜ。


あれも高く売れるのか?金の成る猫の額ほどの庭ってわけだ。


面白れぇ。


だが、俺にはさっぱり分からねぇ。


俺はコンビニで5個入りの(注3)薄皮白あんパンと薄皮クリームパンと薄皮チョコクリームパンを買った。


3人の今晩の食事さ。


15個を3人で分けるのさ。


母ちゃんは白あん3個とクリーム2個、弟はクリーム1個とチョコクリームを4個。


俺は白あん2個とクリーム2個とチョコクリームを1個だ。


バラエティーに富んだ食事内容で、真似したくなっただろう?


残りの金で宝くじでも買うか・・・。これは弟には内緒なのさ。


俺のささやかな贅沢に使うムダ金だからな。



<山川、宝くじ売り場にて>


「すんません、宝くじ一枚下さい。」


「・・・。一枚ですか?300円です。」


「高いな、もぅ~、はい、これ。チャリーン。」


「どうも、当たりますように…」


「お~どうもどうも。俺もそう願うよ。」


当たったらスーパー麻生に行って、国産食品を大人買いするんだ。


国に大量の税金が入ってきて俺の受給額もアップするかもしれねぇ。


そしたらそれで、またスーパー麻生に行くんだ、俺。


     


注1・・・壊れかけのレディオは持っている

注2・・・スーパー麻生は実在する小売店である
     その他、麻生の息がかかった企業は数知れず、ASOの財源を舐めるなよと言う事
     だな 尚、地元ではタロ坊、バカ太郎、たろ坊ちゃんと言えば誰の事か分かる 
      
注3・・・ヤマザキ製パンの薄皮シリーズ、この作品を書いていた当時は5個入りであった
     値上がりの為か1個ケチったらしい(ケッしけてやがるぜ)

         

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